通勤中に交通事故に遭ったら

 

はじめに

 交通事故は突然発生します。日常生活の中で十分な準備をして知識を入れた上で事故が起こるわけではありません。事故はお仕事中に起こることも良くあります。業務中の事故であればわかりやすいのですが、お仕事に向かう途中や、お仕事からの帰り道で、事故の被害にあった場合、労災保険が使えるという発想は、あまり無いかもしれません。

 

 業務中や通勤途中での交通事故の場合、加害者が加入する任意保険会社や自賠責保険において治療費等を負担してもらうことが多いですが、実は、勤務先の労災保険を使うことができるのです。

 

 業務中や通勤途中での交通事故でも、労災保険が使えるということを知らないと、場合によっては大きく損をしてしまうこともあります。ここでは、交通事故と労災保険についてご説明いたします。

 

加害者の任意保険や自賠責保険と、労災保険のどちらを使うべきか

業務中や通勤途中での交通事故の場合、労災保険が使えます。

 

ただし、損害として重複する場合がありますから、二重に獲得できるわけではありません。当然、治療費や休業損害で重複する金額を受け取ることはできません(支給調整と呼ばれます。)。

 

交通事故で労災保険を利用するメリットとしては、労災保険から支給される「特別支給金」や「アフターケア」、「労災就学等援護費」、「長期家族介護者援護金」などは、社会福祉的観点から拠出されているものですから、支給調整がされません。したがって、これらは、労災保険として受け取らないと、別途、相手方保険会社から損害賠償として受け取ることはできません。

 

また、休業損害については、労災保険では、休業補償のほかに、特別支給金を受け取ることができます。これも、支給調整がされませんから、労災保険から受け取ったほうが良いということになります。

 

任意保険や自賠責保険と、労災保険の違い

主な違いを整理してみましたので、ご参考になさってください。

 

任意保険

(自賠責保険)

労災保険

備考

休業損害等

満額が支給

事故前の給与の6割+2

(特別支給金)

労災の特別支給金は、任意保険等からは出ない

入院中の諸雑費

日額1100

無し

 

治療費

制限されうる

治癒まで支給される

相手方保険会社が治療費全額を負担しないことがある(自賠責では120万円が上限)

過失がある場合の減額

減額される

減額されない

自賠責で重過失がある場合の減額はある

年金タイプ

無し

7級以上であれば年金タイプがある

重症の場合は,年金タイプがあると、より良い

死亡の場合における遺族への支給

無し

一定の要件を満たせば遺族への年金が支給される

 

 

労災保険の手続

基本的には、勤務先において手続をしてもらうこととなります。

 

交通事故による労災保険を使用する場合、まずは、次の書類を提出することから始まります。

・第三者行為災害届

 ※ 労災保険は、勤務先以外の第三者(事故の加害者)が支払うべき治療費等をいったん立て替え、後日、第三者に求償しますから、「第三者行為災害」と呼ばれています。

   ・交通事故証明書

・念書(兼誓約書)

・自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書または保険金支払通知書

・死体検案書または死亡診断書、戸籍謄本(被災者死亡の場合)

  詳細は,勤務先や管轄の労働基準監督署に確認するとよいでしょう。

 

 

  なお、勤務先が労災への申請を嫌がることがあるというご相談をお受けすることがありますが、勤務先の責任を追及するわけでは全くありませんし、勤務先が労災を申告したとしても勤務先が支払う労災保険料が上がることはまずありません。

 

それでも勤務先が労災保険の申請に応じない場合には、労働基準監督署に直接相談して申請をしてしまうことができます。

 

後遺障害が残ってしまった場合

お怪我が完治せず症状が残ってしまった場合には、後遺障害の申請をすべきです。

 

この場合、相手方(加害者)の自賠責保険に申請を出すのですが、労災保険にも同じような手続があります。したがって、自賠責保険と労災保険の両方に後遺障害認定申請を行うべきです。

 

なぜ労災保険における障害(補償)給付にも申請を出すべきかと言うと、労災保険固有の特別支給金があるからです。要するに、自賠責保険には存在しない固有の支払いがあるからです(その部分の支給調整はされません)。

 

特に重傷の場合は、必ず労災保険へ申請しましょう。自賠責保険からの賠償金は一時金といって一括の支払いのみですが、労災保険からは、年金タイプ(受給権者が生きている限り支給される)があるからです。

 

なお、自賠責保険と労災保険は別の手続ですから、認定結果が異なることも散見されます。

 

加害者と示談をするときの注意点

手続は基本的には次の手順となります。

 

事故→通院や検査→症状固定→後遺障害→相手方保険会社との示談交渉。

 

この示談の際には注意すべき点があります。それは、示談をしてしまったら、原則として労災保険への請求ができなくなってしまうということです。簡単に言ってしまえば、示談した場合には、労災保険も同様に終わりとお考えいただければと思います。