関節の可動域制限が残った場合の後遺障害等級と賠償

関節の可動域制限

 

交通事故の被害にあい、関節やその周辺に障害が残ることがあります。

 

このような場合、関節の機能障害(運動障害)として、後遺障害に認定される可能性があります。

 

 

関節の機能障害は、痛みやしびれなどの神経障害に次いで認定数が多く、後遺障害認定実務上非常に重要な後遺障害の一つです。

 

後遺障害に認定されると、入通院(傷害)慰謝料とは別に後遺障害慰謝料のほか、後遺症逸失利益が賠償されることとなり、賠償額が大幅に増額されます。

 

 

したがって、後遺障害に認定されるか否か、慎重に検討する必要があります。

以下、ご説明いたします。

 

 

1.前提としての因果関係

関節の機能障害(運動障害)が後遺障害として認定される前提として、事故によって関節の動きが制限されたという因果関係が必要とされます。

 

例えば、事故により関節部分を骨折したが癒合が不良であったとか、事故により神経が損傷しただとかという因果関係が必要であるということです。

 

 

2.関節の機能障害と可動域

関節の機能障害(運動障害)が後遺障害に認定されるか否かは、関節がどのくらい曲がらなくなってしまったか(可動域制限)によって判断されます。

 

 

関節の可動域は、医師により、関節(肩、腕、手首、股関節、膝、足首など)の可動域が測定されます。

 

左右で障害が残っていない方の関節の可動域に比べて、障害が残っている方の関節の可動域がどの程度制限されているか、測定がされるわけです。

 

この測定は、1995年に定められた日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定方法」によりされる必要があり、5度刻みで測定がされます。

 

 

中には、正しい測定方法を実施しなかったり、測定をしたとしても関節可動域の数値を診断書に記載しなかったりする場合があるようですから、よく注意する必要があります。

 

正しい測定の結果が出されることにより、後遺障害等級に認定されうるということになるわけです。

 

 

ただし、関節の可動域が制限されたというだけで、後遺障害として認められるわけではありません。

 

関節の可動域制限が後遺障害として認められるためには、可動域制限の医学的原因が画像診断や検査結果で明らかにされる必要があります。

 

 

また、医師による測定は、一回のみでなく、複数回実施されることが望ましいといえますから、治療通院中の方は検査測定が何回されるのか医師に確認してみると良いでしょう。

 

 

3.関節可動域が制限される原因

交通事故による外傷後の可動域制限の原因には、次のようなものがあります。

 

①骨組織や軟部組織(筋肉、靭帯、関節包)などの器質的変化が原因である場合

 

②神経麻痺が原因である場合

 

いずれも関節可動域の測定は、「関節可動域表示ならびに測定法」に基づいて、「角度計」を使用して5度刻みで測定することとされています。

 

実際には「角度計」を使わずに目測や感覚で測定されてしまったということなども存在しますから、測定方法について医師に確認すると良いでしょう。

 

 

4.主要運動と参考運動

後遺障害等級は、主に、主要運動の可動域によって決定されます。
可動域の測定について表にまとめると、次のとおりです。

 

部位

主要運動

参考運動

せき柱(頸部)

屈曲・伸展、回旋

側屈

せき柱(胸腰部)

屈曲・伸展

回旋、側屈

肩関節

屈曲、外転・内転

伸展、外旋・内旋

ひじ関節

屈曲・伸展

 

手関節

屈曲・伸展

橈屈・尺屈

前腕

回内・回外

 

股関節

屈曲・伸展、外転・内転

外旋・内旋

ひざ関節

屈曲・伸展

 

足関節

屈曲・伸展

 

母指

屈曲・伸展、橈側外転、掌側外転

 

手指及び足指

屈曲・伸展

 

 

 

主要運動とは、「日常の動作にとって最も重要な運動」をいいます。

 

例として、肩関節の測定についてご説明します。

・屈曲(腕を前方と天井に上げる) 

・外転(腕を真横と天井に上げる)

 

参考運動とは、「日常の動作で主要運動ほど重要でない運動」をいいます。

 

肩関節でご説明します。

・伸展(腕を後方に上げる)

 

後遺障害の等級認定は、原則として主要運動により判断されるのですが、主要運動の制限が微妙な場合にも認定を可能とするため、参考運動も文字通り参考とされるのです。

 

 

5.両上肢(両手)・両下肢(両足)ともに障害が残った場合等

上記のご説明は、左右の一方のみに障害が残っている場合における測定方法です。

 

では、両上肢(両手)・両下肢(両足)ともに障害が残った場合や、そもそも左右が無い脊柱に障害が残ってしまった場合は、どのように可動域を評価するのでしょうか。

 

 

このような場合は、「参考可動域」と比較します。

 

参考可動域とは、正常な人の関節可動域の平均値のようなものです。

 

参考可動域は、部位ごとに、それぞれの運動に関する角度がすべて数字で定められています。

 

詳細は以下のとおりですが、参考可動域と比較することにより、後遺障害に認定されるかどうかが判断されることになるわけです。

 

(1)せき柱

部位名

運動方向

参考可動域角度

頸部

屈曲(前屈)

60

伸展(後屈)

50

回旋(左)

60

回旋(右)

60

側屈(左)

50

側屈(右)

50

胸腰部

屈曲(前屈)

45

伸展(後屈)

30

回旋(左)

40

回旋(右)

40

側屈(左)

50

側屈(右)

50

 

(2)上肢

部位名

運動方向

参考可動域角度

屈曲(前方挙上)

180

伸展(後方挙上)

50

外転(側方挙上)

180

内転

外旋

60

内旋

80

ひじ

屈曲

145

伸展

前腕

回内

90

回外

90

屈曲(掌屈)

90

伸展(背屈)

70

橈屈

25

尺屈

75

 

(3)手指

部位名

運動方向

参考可動域角度

母指

橈側外転

60

掌側外転

90

屈曲(MP)

60

伸展(MP)

10

屈曲(IP)

80

伸展(IP)

10

屈曲(MCP)

90

伸展(MCP)

45

屈曲(PIP)

100

伸展(PIP)

屈曲(DIP)

80

伸展(DIP)

※MCP:中手指節関節、PIP:近位指節間関節
 IP:指節間関節、DIP:遠位指節間関節

 

(4)下肢

部位名

運動方向

参考可動域角度

屈曲

125

伸展

15

外転

45

内転

20

外旋

45

内旋

45

ひざ

屈曲

130

伸展

屈曲(低屈)

45

伸展(背屈)

20

 

(5)足指

部位名

運動方向

参考可動域角度

母指

屈曲(MTP)

35

伸展(MTP)

60

屈曲(IP)

60

伸展(IP)

足指

屈曲(MTP)

35

伸展(MTP)

40

屈曲(PIP)

35

伸展(PIP)

屈曲(DIP)

50

伸展(DIP)

※MTP:中足指節関節、IP:指節間関節